目次
知り合いの方から問合せ。
「パッシブハウス仕様の住宅は、無暖房無冷房状態では室温はどんな風になるの?」
確かに・・・、
判らない・・・、
ズバリ直球を投げてこられました。
これってあまり書かれてないですよね。
私も、基本的には・・・。と言いかけましたが。
すぐに正確な返答できませんでした。
ここで「パッシブハウス仕様」の整理をしたいと思います。
パッシブハウス仕様
パッシブハウス仕様という仕様はありません。
パッシブハウス認定
ドイツパッシブハウス研究所によるパッシブハウス認定があります。
パッシブハウスとは
ドイツパッシブハウス研究所が「パッシブハウス」として認定した建物
パッシブハウス認定基準
実際は多岐に渡りますが、
パッシブハウス・プランニング・パッケージ(PHPP)の代表的な基準は以下の4点
1.暖房負荷:15KWh/(m2・K)未満
2.冷房負荷:建設地により基準が決まります。
(滋賀県虎姫では22KWh/(m2・K))
3.気密性能:C値換算でいうと0.2(cm2/m2)
C値とは外壁のすき間の量の多い少ないをのべ床面積で表す値
(日本基準は9.8パスカル時のC値であるがパッシブハウス基準は50パスカル時のC値と約5倍厳しい。)
4.現在のパッシブハウスは3つにクラス分けされ、パッシブハウスクラッシックの場合は再生可能一次エネルギー(PER)消費量:60KWh/(m2a)未満
パッシブハウス仕様とは
上記4点を満足する建築仕様がパッシブハウス仕様と言えると思います。
1:暖房負荷15KWh/(m2・K)未満
現在の一般的な住宅と比べると大変小さな数字です。この数値を達成するには、外壁の断熱材仕様と窓性能、暖房の仕方により決まってきます。
2:冷房負荷22KWh/(m2・K)未満
現在の一般的な住宅と比べると大変小さな数字です。この数値を達成するには、外壁の断熱材仕様と窓の向き・性能、冷房の仕方により決まってきます。
3:気密性能
日本の省エネ基準ではなくなった性能で以前は5.0(cm2/m2)未満という基準がありましたが、
聞くところによると施工者側からの反対で現在は基準自体が削除されました。
世界適には気密性能基準があります。
パッシブハウスは50パスカル時のC値換算0.2(cm2/m2)であり
昔の日本基準のC値換算5.0(cm2/m2)と比べると
測定時の風圧差が5倍、
C値が25倍、
計5×25=125倍、
逆数でいえば昔の日本基準の125分の1未満でないとパッシブハウスになりません。
4:再生可能一次エネルギー(PER)消費量
パッシブハウス・プランニング・パッケージ(PHPP)で計算するのですが、
冷暖房、照明、給湯などの総再生可能一次エネルギー消費量です。
パッシブハウスは(一般的な人が生活しやすい温度として)冬は室温20℃、夏は室温25℃という前提条件のもとで、
この再生可能一次エネルギー消費量を計算します。
実際生活する時点では上記温度設定でなくても(日本では)OKです。
本題
最初の前提条件整理が長くなりましたが
ここで本題の
「パッシブハウス仕様の住宅は、無暖房無冷房状態では室温はどんな風になるの?」
に移りたいと思います。
実例を探しました。
茨城パッシブハウスです
茨城パッシブハウスとは
私は2011年1月からパッシブハウスを設計着手し、
ほぼ完了した2011年2月18日にパッシブハウス・ジャパン総会が東京であり、
その一連行事で茨城パッシブハウスを見に行きました。
私が見たパッシブハウス第一号はこの「茨城パッシブハウス」でした。
初見感想は
「これがパッシブハウスか?」
感動です。
茨城パッシブハウス基本情報
日本で2棟目のパッシブハウス認定
所 在 地 : 茨城県石岡市若松2-7-1
暖房負荷 : 14.88 kWh/m²
冷房負荷 : 18.55 kWh/m²
施工 : 株式会社島田材木店
設計 : 株式会社島田材木店
詳細は下記HPにて
http://passivehouse-japan.org/ja/works/%E8%8C%A8%E5%9F%8E%E3%83%91%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%96%E3%83%8F%E3%82%A6%E3%82%B9/
東日本大震災により停電
2011年3月11日、午後2時46分
東日本大震災が起こりました。
茨城パッシブハウスの建設地、茨城県石岡市は停電
石岡市 3月14日、停電は全域復旧(茨城県の資料より)
当時の気温は何度だったのか?
茨城県、アメダス、観測地点はどこにあるの
観測所のリスト
当時の話を聞く
持ち主の島田さんに当時の話を聞きました。
「パッシブハウス仕様の住宅は、無暖房無冷房状態では室温はどんな風になるの?」と聞かれまして、
東日本大震災の時、確か石岡市は停電になったと以前聞いたのですが、
その無暖房状態では室温はどんな風になりましたか。その時のデーターはありませんか。」
と
島田さんからは
「震災時の経験ですが、無人・無暖房でも15℃は切りませんでした。
当時(3月11日~)はかなり寒かったように記憶しています。
朝方は0℃近くになりますし、日中も10℃まで上がらないようなイメージだったように思います。記録がないので申し訳ありません。」
「無暖房でも、実際生活していれば、もう少し高い温度帯で生活できると思います。」
との返事を頂きました。
当時はモデル住宅展示場として使われていて、無人・無暖房で15℃までしか下がらなかったんですね。
人間一人100ワットの発熱があると言われていますので、住めばもう少し高くなるでしょう。
あれ、何か会話に違和感が
よく考えれば私、変な質問してしまいました。
震災で全戸停電しているのに、「データーが無いかと」あり得ない問い合わせをしてしまいました。
島田さん、大変失礼しました。
その時、外気温は何度だったのか。
ふと気になりましたので調べました。
アメダス観測地点、土浦の気温データー
茨城パッシブハウスから近いアメダス観測地点は土浦です。
ここでは気温の観測も行っています。
茨城県土浦の2011年3月の観測データーを気象庁から拝見しました。
茨城パッシブハウス3月11日の午後2時から停電になりました。
全面復旧は3月14日です。(茨城県資料による)
停電時のアメダス土浦の最高気温・最低気温
上記のアメダス土浦のデーターでは以下の気温経過でした 最高気温その時間最低気温その時間3月11日12.1℃14:09:00 3月12日 -1.7℃6:30:003月12日12.8℃15:43:00 3月13日 2.0℃6:27:003月13日18.2℃15:13:00 3月14日 2.5℃6:11:00
茨城パッシブハウスは当時はまだ住まれてなくて、モデルハウスとして使われていて無人、
停電により無暖房状態になりました。
その時当然内部に発熱体は無く、暖房効果があるのは昼間の日射による暖房効果だけと思われます。
昼間に太陽で温かくなった室温を外壁の断熱効果と気密効果で出来るだけ熱を逃がさなかった。
結果として最低外気温0℃の時でも室温15℃を維持した。
次の日の昼間には日射で温かくなる。
日射が無くなれば、熱が外部に奪われ、室温が徐々に下がる。
これの繰り返しで最低室温15℃が維持されたのでしょう。
逆にパッシブハウスでない建物の場合、
断熱性能と気密性能がパッシブハウスと比べて相対的に低いので、
皆さんの想像のとおり、限りなく外気温0℃に近くなると思われますね。
パッシブハウス設計では何をしているか
断熱性能の計画・計算
よくよく考えるとパッシブハウス設計で何をやっているかを考えると、
外気温に対して外壁でどれだけ熱移動があるか。
それを基準以下にするために
断熱性能をいくつにするかをずっと計画・計算しています。
日射取得・日射遮蔽性能の計画・計算
そして、冬は日射取得、夏は日射遮蔽性能を計画して、
PHPP計算で窓の向き、大きさ、性能をシミュレーションしています。
上記2つの計画・計算で
冬の熱移動が15KWh/(m2・K)になるまで、
夏の熱移動が22KWh/(m2・K)になるまで
いろいろシミュレーションを繰り返し設計を決めていきます。
ここまでは一次エネルギーの話はありません。
無エネルギー供給時の検討です。
再生可能一次エネルギー消費量の計画・計算
この後で、単位面積当たり、そして単位温度当たり
15KWh未満の建物仕様の場合に建物全体の一次エネルギーの計算をしていきます。
省エネ機器の選定、
たとえば電気を直接熱エネルギーに変えないとか、
(電気こたつ・ダイソンヒーターなどは一次エネルギーが多いのでよくない)
ヒートポンプ技術を使って再生可能一次エネルギー消費量を
60KWh/(m2a)未満になるように計画していきます。
結果
パッシブハウスでは
無暖房状態で熱移動15KWh/(m2・K)未満に計画する。
無冷房状態で熱移動22(滋賀・虎姫)KWh/(m2・K)未満に計画する。
その後で一般的な人が使う場合を想定して冷暖房・給湯・照明・調理などに必要な再生一次エネルギー量を60KWh/(m2a)未満に計画する。
よって、
無暖房無冷房時の場合は室温が15℃まで低下する。
少し冷暖房してもらえれば室温が20℃を維持でき、健康が維持できると言う考え方です。
参考に下記のイギリス保健省の法律を見てください。
室温18℃未満の住宅禁止なんです。
参考:イギリス保健省、冬季の室温指針(英国保健省年次報告書2010.3)
マドコト(YKKap)より抜粋
推奨21℃・・・健康な温度
許容18℃・・・健康リスクが現れる温度
————————————————————-
危険16℃・・・呼吸器疾患に影響あり
危険12℃・・・血圧上昇、心臓血管上昇のリスク有
危険 5℃・・・低体温症を起こすハイリスク
家の資産価値が高いイギリスには、住宅法という法律があり、
冬場の室温が18℃以下に下がる家を建ててはいけない、と決められています。
理由は、人間の健康に害が出るから。
そんな家を建てたら、回収・閉鎖・解体命令が下るか、断熱工事をやり直しです。
パッシブハウスは最低温度20℃イギリスの推奨基準と比べて控え目の基準なんですね。
結論
「パッシブハウス仕様の住宅は、無暖房(無冷房)状態では室温はどんな風になるの?」
に対しての結論は
2011年3月の東日本大震災時の停電時、
茨城パッシブハウスは最低外気温0℃で、
「無人・無暖房でも(最低室温は)15℃以下にはならなかった。」
Comments